東証一部へマザーズ企業が昇格する条件【過去実績数とSaaS企業の事例あり】

マザーズ上場の企業分析

2021年1月に名刺管理ツールを提供する Sansan社 の市場変更(東証マザーズ → 東証一部)が発表されました。発表後、株式市場ではストップ高になってました。今回は東証マザーズ(以下、マザーズ)から東証一部へ市場変更する要件をまとめてみました(本記事は2021年1月15日時点のものであり、22年に予定される市場再編により要件が変更となる可能性があります)。

本文記事の一部と若干の加筆を除き、ほとんどの内容はSaaSに特化したVCの One Capital三好翔さんのnoteから転載許諾を受けて転載・制作をしています。三好翔さんのご紹介は目次より参照ください。

東証一部/マザーズ上場とは

東証一部/マザーズ上場とは、株式市場の一つである東京証券取引所(東証)の市場第一部(東証一部)/マザーズに株式を公開することです。上場とは、証券取引所で株式を売買できるようにすることで「直接金融」ができるようになります。上場することで、投資家から資金を直接調達する証券取引などができるようになります。他方、銀行から融資を受けて資金調達する取引などを間接金融といいます。

東証一部は東証が定める厳しい審査基準を満たした企業です。東証一部やマザーズなどの株式市場に上場するためには、企業の継続性や有価証券報告書の内容など様々な審査を満たさなければなりません。東証一部はさらに厳しい基準が設けられています(後述)。

東証一部とマザーズへ上場している企業数

東証一部とマザーズに上場している企業数推移

東証一部市場に上場している企業数は約2,200社、マザーズ市場に上場している企業数は約350社となっています。年あたりの上場数は、その年によって増減の幅が大きいですが、ざっくり東証一部市場に上場した企業数は過去30年の年平均で33社、マザーズは過去22年の年平均で16社ほどです。

景気によって左右されますが、両市場とも増加傾向になります。

東証一部へ上場している企業数推移
東証マザーズへ上場している企業数推移

東証一部とマザーズへ上場するための基準/条件の比較

サマリーだけでも、わかりやすく東証一部への上場の基準が厳しいのがわかります。

項目東証一部へ上場マザーズへ上場
株主数800人以上150人以上
流通株式・流通株式数:2万単位以上
・流通株式時価総額:100億円以上
・流通株式数(比率):上場株券等の35%以上
・流通株式数:1,000単位以上
・流通株式時価総額:5億円以上
・流通株式数(比率):上場株券等の25%以上
時価総額250億円以上
純資産の額連結純資産の額が50億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でない)
利益の額又は売上高次のa又はbに適合すること
a.最近2年間における利益の額の総額が25億円以上
b.最近1年間の売上高が100億円以上 かつ 時価総額が1,000億円以上

詳細は以下。テーブルは日本取引グループの上場審査基準より再構築。

項目
新規上場に係る市場一部銘柄への指定
(市場第一部への直接上場)
株主数800人以上150人以上
(上場時までに500単位以上の公募を行うこと)
流通株式流通株式数 2万単位以上
流通株式時価総額 100億円以上
流通株式数(比率) 上場株券等の35%以上
流通株式数 1,000単位以上
流通株式時価総額 5億円以上
流通株式数(比率) 上場株券等の25%以上
時価総額250億円以上-
事業継続年数新規上場申請日から起算して、3か年以前から
取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること
新規上場申請日から起算して、1か年以前から
取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること
純資産の額連結純資産の額が50億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でない)
-
利益の額又は売上高次のa又はbに適合すること
a.最近2年間における利益の額の総額が25億円以上
b.最近1年間の売上高が100億円以上
 かつ時価総額が1,000億円以上
-
虚偽記載又は
不適正意見等
・最近2年間の有価証券報告書等に「虚偽記載」なし
・最近2年間(最近1年間を除く)の財務諸表等の監査意見が
 「無限定適正」又は「除外事項を付した限定付適正」
・最近1年間の財務諸表等の監査意見が原則として「無限定適正」
・申請会社に係る株券等が国内の他の金融商品取引所に
 上場されている場合にはあっては、次の(a)及び
(b)に該当するものでないこと
(a)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載
(b)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載
・「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書(最近1年間を除く)
 において、「無限定適正」又は「除外事項を付した限定付適正」
・「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書等(最近1年間) において、
 「無限定適正」上記監査報告書又は 四半期レビュー報告書に係る財務諸表等が記載又は
 参照される有価証券報告書等に「虚偽記載」なし
・新規上場申請に係る株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合にあっては、
 次の(a)及び(b)に該当するものでないこと
(a)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載
(b)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載
上場会社監査
事務所による監査
最近2年間の財務諸表等について、上場会社監査
事務所の監査等を受けていること
「新規上場申請のための有価証券報告書」に記載及び
添付される財務諸表等について、上場会社監査
事務所の監査等を受けていること
株式事務
代行機関の設置
東京証券取引所(以下「東証」という)の承認する株式事務代行機関に委託しているか、又は当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること
単元株式数単元株式数が、100株となる見込みのあること
株券の種類新規上場申請に係る株券等が、次のaからcのいずれかであること
a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式
b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける
 権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式
c.無議決権株式
新規上場申請に係る株券等が、次のaからcのいずれかであること
a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式
b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける
 権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式
c.無議決権株式
株式の譲渡制限新規上場申請に係る株式の譲渡につき制限を行っていないこと又は上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること
指定振替
機関における取扱い
指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること又は取扱いの対象となる見込みのあること
合併等の実施の見込み次のa及びbに該当するものでないこと
a.合併、会社分割、子会社化若しくは非子会社化若しくは事業の譲受け
 若しくは譲渡を行った場合又は2年以内に行う予定のある場合で、
 新規上場申請者が当該行為により実質的な存続会社でなくなる場合
b.新規上場申請者が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる
 株式交換又は株式移転を2年以内に行う予定のある場合
-

株式市場におけるマザーズの位置付け

IPO を目指している起業家の中には、マザーズ上場を経て東証一部への昇格を目指している方も多いかと思います。事実、マザーズは東証一部へのステップアップを視野に入れた、新興企業向けの市場として位置付けられています。マザーズに上場する企業は、市場変更する前提で上場していると言っても過言ではありません。そのため、マザーズへ上場してから10年経過した場合は、東証二部と同水準の上場廃止基準が適用されます。

マザーズ上場10年後の上場廃止基準

上場廃止基準はいくつか存在しますが、まず重要なのが時価総額。時価総額は株価 × 発行済株式数で算出されますが、これが10億円以上である必要があります。また、流通株式時価総額が5億円以上である必要があります。流通株式とは市場に出回っている株式のことで、創業者や役員、事業会社をはじめとする大株主を除いた株式を指します。この流通株式数も2,000単位必要となります。株主数を400名以上保持しておくことも条件の1つです。

上場廃止を免れた場合でも、マザーズに残るか、東証二部へ市場変更するかという選択を迫られます。マザーズに残るという選択をした場合でも、5年経過するごとに再度市場選択を求められることとなります(かなりのプレッシャーですね)。21年1月15日時点でマザーズから東証二部へ移行した企業は50社存在します。

東証一部へ昇格するために重要な6つの要件

マザーズから東証一部へ市場変更するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。項目としては、13個あるのですが、今回は重要であろう6つの要件にフォーカスして紹介します。

各市場における上場審査基準

株主数

マザーズへ IPO する際、最低でも150名の株主を抱えている必要があります。また、上場時までに500単位以上の公募を行うことが必須となっています。そのため、公募を伴わないダイレクトリスティングのような方法では上場することができません(未上場時に公募増資できれば話は別かもしれませんが)。

マザーズから東証一部へ市場変更するには、株主数を800名まで増やす必要があります。そのため、投資をして事業をグロースさせ、投資家から注目される必要があります。また、機関投資家だけだと母数が増えないため、個人投資家にも株主になってもらうことが必要です。そのため、株主優待制度を新たに設けたり、株式分割をして投資のハードルを下げ、個人投資家を呼び込んでいる企業も多く存在します。

流通株式

マザーズでは、流通株式数が1,000単位以上、流通株式時価総額が5億円以上、流通株式比率が25%以上と定められています。上場したとしても流動性がなければ意味がありませんので、ある程度の流動性を確保してね、という意味ですね。

東証一部へ昇格するには、流通株式数が20,000単位以上(マザーズの20倍)、流通株式時価総額が100億円以上(同20倍)、流通株式比率は35%以上(同1.4倍)と定められています。仮に時価総額1,000億円のピカピカ企業だったとしても、流通株式比率が5%(流通株式時価総額:50億円)しかなかったら、東証一部には市場変更できないということになります。時価総額を拡大させるとともに、流動性を高めていくことが肝になりますね。

時価総額

東証のHPを確認すると、マザーズでは時価総額について言及されていません。そのため、極端な話をすると時価総額が1,000万円の会社でも上場できてしまいます。

というのは冗談で、上述したように流通株式時価総額が最低でも5億円必要となっています。そのため、理論上は時価総額が最低5億円は必要だということです。ただし、流通株式比率が100%ということはあり得ないので、少なくとも時価総額10億円(流通株式比率:50%)は必要になってきます。

東証一部へ市場変更するには、250億円の時価総額が必要となります。仮に10億円で IPO を果たした場合、その評価を25倍上げていく必要があります。また、上述したように流通株式時価総額が100億円、流通株式数が35%以上必要なので、理論上は300億円ぐらいの時価総額が必要となります。

事業継続年度

マザーズへ上場するには、IPO 申請日から起算して、1年以上前から取締役会を設置して事業を行っている必要があります。そのため、創業して1年未満で上場するという選択肢はなくなります。

東証一部へ昇格するには、3年以上前から取締役会を設置している必要があります。仮に、爆速で成長していてマーケットからの評価が高まっている企業であったとしても、創業から3年未満だと東証一部へ市場変更できないことになります。ただ、マザーズの中で最も時価総額が高いメルカリでも2013年創業、次いで高いフリーは2012年ということで、そこを強く意識する必要はなさそうです。

純資産額

純資産に関して、マザーズでは明確な基準は設けられていません。なので、純資産額がマイナスでも理論上は上場できることとなります。一方、東証一部ではそうはいきません。連結純資産額が50億円以上、かつ、単体純資産額がマイナスでないことが必須要件となります。成長のための投資と財務基盤の強化を並行して実行することが重要です。

売上および利益

マザーズでは、純資産と同じく売上や利益に関する要件が設けられていません。とはいえ、流通時価総額が5億円以上と定められているので、さすがにトラフィックが0であるスタートアップは上場できませんし、アメリカでブームになっている SPAC も現時点では上場はできないでしょう。

東証一部へ市場変更するための売上および利益は明確に定められており、以下いずれかの要件を満たす必要があります。

A. 直近2年間における利益総額が25億円以上
B. 直近1年間の売上高が100億円以上かつ、時価総額が1,000億円以上

ちなみに Sansan は、B 条件を満たして承認を得ています。前期の売上高は133億円&時価総額は安定して1,000億円を超えています(現在は2,694億円)。前期は黒字でしたが、前々期は赤字であったため、A には該当していないですね。

東証一部へ市場変更するための要件には他にもいくつかありますが、いずれも上場企業として当たり前のコンプライアンスに関わることなので、こちらでは割愛します。詳しく知りたい方は、東証HPを確認してみてください。

マザーズから東証一部へ市場変更した例

マザーズから東証一部へ市場変更した企業数

東証HPによると、マザーズから東証一部へ市場変更した例は、2017年まで遡ると合計108件ありました。母数が少ないのでなんとも言えませんが、mixi が市場変更を行った昨年が過去最多となっています。SaaS では、2018年にオロが昇格しています。また、ラクスルが昇格した2019年にはユーザーローカルが市場変更を行い、昨年には手間いらずが市場変更を果たしました。そして、今年はまだ始まったばかりですが、Sansan が市場変更の承認を得ています。

一方、前述したような要件を満たしていない企業は市場選択を迫られることとなります。これまで、マザーズから東証二部へ市場変更した企業は50社存在しています。内訳を見ると、2015年が24社と約半数を占め、徐々にその件数が減少していることから、東証によるガバナンス強化が推進されていることがわかります。

22年4月に控える市場再編(プライム / スタンダード / グロース)によって、上場承認ならびに維持に関わる基準がどうなるかは現時点で定かではありませんが、プライム市場へ昇格するハードルは高くなるかもしれません。

SaaS企業における上場市場

主要な SaaS 企業10社の上場市場を確認すると、10社中3社が東証一部(予定含む)となっており、大半がマザーズであることがわかります。今回、Sansan が東証一部へ市場変更したことを皮切りに、今後多くの SaaS 企業が市場変更することになるかもしれません。

SaaS企業の上場市場

株主数や流通株式数などはわかりかねますが、時価総額や売上の視点で考えると、ラクスやマネーフォワード、ユーザベースなどは一部へ市場変更する可能性が0ではありません。事実、マネーフォワードは IR 資料にて早期に東証一部を目指すと宣言しています。また、昨年末には株式分割を行っており、個人投資家を増加させる施策を行っています(あくまで憶測なので参考程度に捉えていただければと思います)。

まとめ

今回はマザーズから東証一部へ昇格するためにおさえておくべきポイントについて解説しました。起業家にとっては、まずはマザーズ(グロース)への上場が足元の目標かと思いますが、中長期的な視点で少しでも参考になれば幸いです。

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