株式会社WACULとは
データ分析でデジタルマーケティングのPDCAを支援するサービス「AIアナリスト」を中心に、マーケティングのDXを推進するワンストップ・サービス「AIアナリスト・シリーズ」を提供するプロダクト事業と、DX実現のための戦略立案や組織・オペレーション設計等のコンサルティングを行う「DXコンサルティング」。企業・学術機関と共にPoC等を行う社内研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」などを持つインキュベーション事業により、主に企業の生産性向上と収益向上に資する課題解決ソリューションを提供。
会社概要
会社名:(株)WACUL
代表者名:大淵 亮平
創業年:2010年9月
上場年:2021年2月19日
上場コード:4173
発行市場:マザーズ
業種分類:情報・通信
会社URL:https://wacul.co.jp/
採用サイト:https://wacul.co.jp/recruit/
ビジネスモデル

顧客に提供している価値を一言で表すと、「適切なマーケティング分析の内製と効率化」の提供です。
・Googleアナリティクスデータと連携してデータ整理
・整理したデータから改善提案・改善の振り返りが可能
・改善案から実施する施策もサービスとして提供
【ビジネス構造】
事業は大きく2つ。それぞれの事業の根幹には「デジタルデータ」が流れている構造になっている。
①「AIアナリスト」を中心としたプロダクト事業
②「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」という企業・学術機関と共にPoC等を行うインキュベーション事業
プロダクト事業について
プロダクト事業は「AIアナリスト・シリーズ」といわれる、「AIアナリスト」「AIアナリストSEO」「AIアナリストAD」の3つで構成されている。ただ、プロダクトを深ぼっていくと基本的に「AIアナリスト」を軸にその他2つのプロダクトが展開されていことがわかる。
AIアナリスト
・課金体系はフリーミアムモデル
・ユーザーに対して無料でツールを提供
・対価としてユーザーのWebサイトの行動データを獲得
・2020年12月末時点で3万4千サイト以上のデータを保有
・SaaSサービスとして、常に(毎週何かしらの修正など)アップデートを行っている
・ローコストで開発できる環境を作っているためユーザーにも低価格で提供できている(ここがネックになる可能性も。まとめにコメントあり)
・顧客に対する提供価値の陳腐化を防いでいる
AIアナリストSEO
・コンテンツマーケティング支援サービス
・「AIアナリスト」の改善提案を活用
・“コンバージョン=購買・商談機会の獲得”を意識したコンテンツをサイト運営者に代わって制作
・効果的なコンバージョン獲得のためには、クローズドな情報である“サイト内の行動データ”の分析を行う必要がある
・サイトへの流入ではなくコンバージョンにフォーカス
・サイト内の行動データも分析したうえでキーワード選定を行う
・Webサイト内における設置場所の決定も「AIアナリスト」の分析結果から得られる最適導線の提案に従って行う
AIアナリストAD
・広告枠の買い付けなどのWeb広告業務の一部をシステム化しWeb広告の運用を代行するサービス
・Webサイト内のデータを保有・分析できる「AIアナリスト」を提供する当社ならではの強みを活かす
・“訪問数を増やすWeb広告”ではなく“コンバージョンを増やすための、Web広告とWebサイトの一体運用”を提供
・多くの顧客のデータを保有し分析しているため、顧客の属性にあわせて、検索連動型広告やSNS広告、記事広告など多様な広告媒体を横断的に提案し、最適化を図っている
・実運用については、広告運用が自動化されている外部ツールを利用することで、工数を削減しつつも効率的な広告運用が可能
インキュベーション事業について
・プロダクト事業の「AIアナリスト・シリーズ」の機能拡張や新規ソリューション開発のための取組事業
・アカデミアおよびビジネスの先端をいく人材を顧問とする社内研究所である「WACUL テクノロジー&マーケティングラボ」を2019年2月に社内研究所として設立
・AIやマーケティングの先端テクノロジーの知見をプロダクト事業に移管している
・知見の獲得および各種ソリューションの開発・機能強化を目的
・2020年2月期において全体に占める売上高の割合は10%未満
・コンサルティング業に源流を持つため、社内のコンサルティングに関する知見の蓄積を活かして、事業全体の再構築や、KPI設計、組織設計、オペレーション構築等のコンサルティングサービスを提供
【顧客開拓】
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)によると、現状は直販部隊での販売を主としているとのこと。
プロダクトがフリーミアムモデルで、「無料で導入して、一部が有料になっていく」というもの。顧客開拓においては「無料で導入した企業がそのまま顧客予備軍になる」ため少人数でも効率的に直販セールスが可能。実際に「事業計画及び成長可能性に関する事項について」でも無料版利用ユーザーへの掘り起こしから商談に繋がっているため、顧客予備軍に対してインサイドセールス等での販売をしていると考えられる。

ここで重要になってくるのが「無料で導入をしてもらう」こと。そのため、WACULとしてはプロダクトの認知を広げるために無料セミナーやSNSなどでの積極的な発信が販促施策を継続的に実施している。
また、ここ数年は広宣費だけでも年間5千万ほど投下をしている。広宣費に関しては、主にウェブ広告や記事広告、紹介会社(パートナー?)、展示会に投資をしているとのこと。一方でただ広告に投下するのではなく自社のアセットになる施策に注力している。
顧客セグメントは規模や業界にばらつきはなくバランスのいい構成をしている。サービス特性上、デジタルマーケティングをしている企業はすべて顧客になりえるということ?

売上推移

・売上推移は直近の4期以降は右肩上がり
・2017年2月-2018年2月で大きく跳ねているのは月額課金を開始したためか
新株式発行並びに株式売出届出目論見書から2016年以降の売上・利益・売上昨対を整理しました。売上はキレイな右肩上がり。基本的な売上はプロダクト事業であり、インキュベーション事業は全体の10%未満とのこと。
経営者の略歴
大淵 亮平(代表取締役社長)
2010年4月 株式会社ボストン・コンサルティング・グループ 入社
2011年9月 当社 取締役
2017年12月 当社 代表取締役社長(現任)
・1987年生まれ
・京都大学経済学部を卒業、ボストン・コンサルティング・グループ株式会社に入社
・新規事業の開発や経営戦略の策定に従事
・2011年9月に取締役COOに就任
・営業・開発など事業面から財務・人事など管理面まで幅広く管掌。その後、2017年12月に代表取締役CEOに就任
・企業のデータドリブン経営、デジタルトランスフォーメーション推進に取り組む
戦略コンサルで新規事業開発や経営戦略策定がファーストキャリアの大淵 亮平氏。AIアナリストを軸として横展開をしていく事業スタイルは過去キャリアをみると納得ができる。
これからの戦略を独自解釈をする
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)には「経営戦略」と「課題」が記載してあります。経営戦略&課題≒今後の打ち手であり、これから何をすべきかが書かれています。資料を参考にしながら、これからの戦略を独自解釈したいと思います。経営戦略や課題は抜粋しているので詳細を知りたい方は有価証券報告書を参照ください。
プロダクトの認知向上
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の要約
・広告宣伝活動に大きく頼らず、自社が持つWebマーケティング技術及び提供サービスの機能優位性に拠る形での顧客の獲得を図ってきた
・幅広い業種の企業に当社サービスを導入してもらっている
・継続的な取引による顧客基盤の構築を実現することができている
・これからはブランド及びサービスのより一層の確立が重要になる

AIアナリスト・シリーズの課金までのユーザー導線をざっくり図版化してみました。
事業の軸になっている「AIアナリスト」はフリーミアムモデルで提供をされています。ユーザーは無料で導入し、有益だと思えば有料プランに変更していくというのが順当なユーザー導線になる。また、有料プランから先にも+αのプロダクトがあるので、一定数が追加の有料サービスへスイッチしていく流れになる。
ここで大切なのが、ユーザーの入口が「無料で導入」ということ。そもそもユーザーがAIアナリストを知らなければ、無料で導入することがないはず。無料導入されなければ、事業収益になる有料プランにもなることはない。
そのため、まずは「ユーザーに知ってもらう」ということを積極的かつ継続的にしていかなければならない。
WACULが開示している「事業計画及び成長可能性に関する事項について」をみると、無料導入の数は登録サイト数としてカウントするならば、日に日に増えている状況。ただ、まだまだ未開拓の企業は多いはず。
今後は、より広く「知ってもらう施策」が重要になっていくと考えられる。

クロスセルサービスの展開
新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・顧客との継続的接点を活かして顧客に新たに生まれた課題をいち早く捕捉していく
・その他のソリューションを提供する「クロスセル」を行っていく
・クロスセルを行えるソリューション群を増やすことでLTV(顧客生涯価値)の最大化を進める
・分析ソリューションとして対応する領域を拡張し「AIアナリスト」の付加価値を高める
・具体的な拡張領域として、SFA/CRM、MAツール、販売管理・在庫管理システムなど
「AIアナリスト」を導入した後にもマネタイズポイントをつくっており、それによってユーザー単価やLTVを上げるのがWACULの事業収益モデル。現状はコンテンツマーケティング支援、広告配信支援を展開している。
クロスセルについてはわかりやすく、既存のプロダクトに加えて、ユーザーが欲しい・必要であると感じる+αのプロダクトがなければならない。有価証券報告書によると、今後はSFA/CRM、MAツール、販売管理・在庫管理システムなどの展開も考えているとのこと。
ただ前述した通り、ユーザーの規模や業種が多岐にわたっているが故に、新たなプロダクト開発が難しい可能性もある。SFAやCRM、MAツールなどはすでに群雄割拠でさまざまな企業がひしめき合っているため参入は容易ではなさそう。
メタップスの調査によるとSaaSサービスの導入実態は以下のようになっているとのこと。


限られたリソースの中で、どのユーザー(業種/企業規模)が欲しているプロダクトを開発していくのかによって事業展開のスピードが大きく変わってきそう。
販売チャネルの構築
新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・「AIアナリスト」を自社の販売部門から直販することで顧客基盤を構築してきた
・ 今後「AIアナリスト」及びその周辺サービスをさらに拡販・成長するためには、事業パートナーとの提携の強化が重要な課題と認識
・まだリーチできていない顧客層をすでに保有している販売パートナーや「AIアナリスト」の機能で提案されるサイトの改善提案を元に実装・実行等を行うソリューションやサービスを持つパートナーとの提携強化に努めていく
・自社開発商品である「AIアナリスト」を顧客に直接提供するだけでなく、同時に保有ビッグデータおよび改善提案アルゴリズムなど、「AIアナリスト」の保有するコア・コンピタンスを切り出しパートナー企業へ提供している
・提供を受けたパートナー企業は自身のソリューションやサービスの中にアルゴリズム等を組み込むことが可能
・パートナー企業は顧客に対してソリューションやサービスの付加価値を高め、競合他社と差別化を行うことが可能
・パートナー企業サービスへの組み込みによるパッケージ化やパートナー企業の業界特化型「AIアナリスト」としてのOEM提供など自社ケイパビリティのレバレッジを行う

ビジネスモデルには抽象化すると3つに大別できると思っています。
- モノをつくる:主にメーカー。自社サービスやプロダクトを開発/販売をする
- モノを代理で売る:販売代理店(デベロッパー以外の不動産ビジネスもこれにあたる)。どこかのサービスやプロダクトを代理で販売もしくは自社サービスと抱き合わせて販売をする
- 知識を売る:士業やコンサルなど非定型のサービスを販売する
WACULは「モノをつくる」に分類される認識。現役員などのキャリアをみると「THE営業」という強いスタイルを持っている方が少なく、組織としても強いアウトバウンド型のセールス活動はしていないと考えられる。
また、「営業・マーケティング部門においては、収益基盤の強化と合わせて適時に採用を行っていく」と記載があり、メンバーとしての重要性はそれほど高くはないと受け取れる。
一方、「モノを代理で売る」という会社を介してエンドユーザーにプロダクトを提供していく方法は大きな可能性がありそう。
AIアナリスト・シリーズが顧客に提供している価値は「適切なマーケティング分析の内製と効率化」であり、同じような価値を提供している企業は多く存在してている。
例えば、ウェブマーケティング支援会社。
Baseconnectで「ウェブマーケティング」と検索するだけで約4,200社も出てくる。
これらの会社の先には必ず顧客がおり、潜在的にAIアナリスト・シリーズの顧客にもなりえる。
WACULは研究開発のメーカー的位置に特化し、販売はパートナーになるウェブマーケティング支援会社を巻き込んでいくことで、ユーザーの数が一気に増える可能性はある。
総括/まとめ
あるSaaSサービスのマーケティング責任者と会話をしていて「会社のお金をたくさん使って色んな施策をしてきて分かったことは、知ってもらうことにお金を投資をすること。リード数とかCV数とかとても大切な数だけど、それを効率的効果的にするにはブランディングが絶対的に必須」という話を聞いてとても納得ができた。
AIアナリストといえばマーケティング担当者なら必ず聞いたことのあるプロダクトだけど、IPOを機にもっと多くの人たちに知ってもらい、無料導入をしてもらうことが継続成長のポイントかと。
また、WACULのプロダクトがシングルソース・マルチテナント型であり、コスト的にも開発スピード的にも強みになっている半面、例えば企業買収などによって新規のプロダクトを獲得できたとしても、この「シングルソース・マルチテナント型」というのがもしかしたら事業展開のスピードでネックになる可能性があるかもしれないと感じました。
5分で読める企業分析
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