ビジョナル株式会社とは
2020年2月3日に株式移転により、株式会社ビズリーチの完全親会社として設立された。主な事業は「HR Tech」、「Incubation」の2つのセグメントをもっている。「HR Tech」の具体的サービスはビズリーチ、HRMOS、その他HR Techサービス。「Incubation」の具体的サービスはトラボックス、BizReach SUCCEED、ビズヒントなど。
会社概要
会社名:ビジョナル(株)
代表者名:南 壮一郎
創業年:2007年8月
上場年:2021年4月22日
上場コード:4194
発行市場:マザーズ
業種分類:情報・通信
会社URL:https://www.visional.inc/ja/index.html
採用サイト:https://www.visional.inc/ja/careers.html
>>>数字でみるビジョナル
>>>南壮一郎氏についてざっくり調べてみた【Owner Profile】
ビジネスモデル

顧客に提供している価値を一言で表すと、「複数領域のデータベース解放と管理ツール」の提供です。
・データベースを解放しダイレクトにアプローチが可能
・アプローチした後の管理ツールもSaaSモデルで提供
・人材領域だけでなく別領域展開にも積極的
【ビジネス構造】
事業は大きく「HRTech」「Incubation」の2つ。細分化すると「HRTech」には、ビズリーチ、HRMOS、その他HR Techサービス、「Incubation」にはトラボックス、BizReach SUCCEED、ビズヒント、ヤモリーが含まれる。
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)を参考に図示してみました。

HR Tech事業
収益の柱になるのが連結子会社になる(株)ビズリーチが展開している「ビズリーチ」「HRMOS」の2つ。この2つの事業でビジョナル全体の8割強を占めている。「ビズリーチ」と「HRMOS」のサービスをそれぞれを細かく分解する。
ビズリーチ
サービス概要
ビジネスプロフェッショナル、国内外の優良・成長企業、各業界に精通したヘッドハンター(人材紹介会社に所属する転職エージェント)の三者を、効率的にマッチングするプロフェッショナル人材(管理職・専門職等)に特化した会員制転職プラットフォーム。
マネタイズポイントと金額

『ビズリーチ』は直接採用企業、ヘッドハンター、求職者の三者にサービス提供をしている。一般的な人材紹介業のビジネスモデルと同様の直接採用企業からの課金売上だけでなく、ヘッドハンター(人材紹介会社)、求職者からの課金売上も存在するユニークな収益構造になっている。利用する全てのステークホルダーからマネタイズをしてるのが面白く、大手人材会社とは一線を画しているビジネスになっている。
※有価証券報告書にはリカーリング売上、パフォーマンス売上という表記があるが、本記事では積み上げといういみでストック売上、ワンショットといういみでスポット売上と表記を統一している。
直接採用企業数・ヘッドハンター数・求職者の入会数推移

事業マネタイズに関わる、直接採用企業数・ヘッドハンター数・求職者の入会数推移は順調に増加をしている。このうちヘッドハンター数は潜在企業数が少ないため、早々に頭打ちになる可能性があるがそのほかはまだまだ深耕していくことができそう。
HRMOS
サービス概要
人財活用プラットフォーム『HRMOS(ハーモス)』は、採用から入社後の活躍までの情報を一元化・可視化することで、エビデンスに基づいた人財活用を可能にするサービス。客観的な判断に基づく「採用・評価・育成・配置」が可能になることによる企業や組織の継続的な成長を実現するもの。現在、『HRMOS』シリーズとして、採用管理クラウド『HRMOS採用』及び人材管理クラウド『HRMOS』を展開。また、人材管理クラウド『HRMOS』は、従業員データベースを基本機能とし、その追加機能として、『評価管理』、『組織診断サーベイ』、『1on1支援』をリリース。今後も給与、労務、勤怠等の機能ラインナップを順次拡充していく予定。
マネタイズポイントと金額
採用管理クラウド『 HRMOS採用』及び人材管理クラウド『 HRMOS』はいずれも、SaaS(Software as aService)形式で提供され、サブスクリプション(定期購入による継続課金)型の課金体系を導入しております。具体的な収入源を整理すると、以下のとおりになる。

『ビズリーチ』が前金(会計計上は月ごと)で財務の安定性を作りながら、『HRMOSシリーズ』がSaaSビジネスで基盤を整える役割をしている。『ビズリーチ』と比較するとまだまだだが、通期でみるとザックリ3.2億がSaaSのストックになっている(2020年7月期の想定売上_ARPU×利用社数で算出)
売上推移

『HRMOSシリーズ』の具体的な売上高は有価証券報告書に記載がなかったですが、単純にARPUと利用社数を掛け合わせてざっくり想定売上高を出しました。
SaaSサービスなので当たり前ですがしっかりと積みあがっているのが分かります。後述しますがチャーンレートも一定水準内に収まっているので、今後も財務基盤としても強くなっていきそう。
人材領域は景気に大きく左右されるビジネスなので、このようなサービスがあると強くなっていく。
チャーンレート、導入社数推移

チャーンレートは1~1.5%を推移していました。別記事紹介しているチャーンレートのベンチマークを参考にしても、大体平均内に収まっている?
そして少し気になるのが直近でチャーンレートがグッと上がっていること。なにか要因があったのか?
Incubation事業
その名前の通り、新たな柱を作っていく事業。Incubationセグメントでは、業界構造や先行市場での動向を分析し、デジタル・トランスフォーメーションを進めることができる大きな市場ポテンシャルを有する領域において、新規の事業を行っている。
具体的には、物流DXプラットフォーム『トラボックス』、事業承継M&Aプラットフォーム『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』、B2Bリードジェネレーション・プラットフォーム『BizHint(ビズヒント)』、オープンソース脆弱性管理クラウド『yamory(ヤモリー)』を提供。最終的には、HCM領域同様、エコシステム構築を目指しているとのこと。
人材領域はどうしても景気変動に左右されやすいビジネスになっているため、”有事の際”に耐えうる次の柱を見つけているのがIncubation事業か。
ビジョナルのビジネス構造をまとめ
ビジョナルのビジネス構造をまとめると、HR Tech事業のビズリーチが前金でキャッシュリッチになる売上のガサを取りながらSaaSのHRMOSシリーズを徐々に増やしていき経営の安定化をしていく。加えて、景気に左右されやすいHR領域以外の新しい柱をIncubation事業で仕込んでいく感じ。
【顧客開拓】
人材ビジネスはリクルートで使われる「リボン図」で考えるとシンプルに理解しやすい。左右のどちらかが少ないと全体の面積が増えていかない構造になっている。

・ユーザー数が少なければ企業は集まらない
・企業が少なければユーザーが集まらない
『ビズリーチ』においてはユーザー・企業ともに認知度は一定あるようなので、「いかに両面を増やし続けられるか」がビジネスのキモになる。
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)によると、顧客開拓については現状インハウスのマーケティング営業法人チームとマーケティングチームで顧客(直接採用企業)を獲得しているとのこと。
ブランド認知度は92%と高い認知度のなかで、いかに「顧客にしていくか」がポイントになる。「知っているけど使っていない」という層を囲い込みながら顧客にしていく方法が今後の打ち手になるか。
また、首都圏やビジネス都市部で「知っているが使っていない」層の顧客開拓を展開をしながら、そのほかの地方エリアの開拓についてどのように考えているのかは気になる。
地方エリアには老舗企業が多く存在していながら、地方ならではの情報格差や閉鎖感もあるケースがあるのでいかに食い込んでいくか。地場で有力な企業などを巻き込みながら実績を作っていくという地道な活動が案外近道だったりする。
『HRMOSシリーズ』は単体での販売をしているが、実際はビズリーチ利用企業が「採用中/後の管理」のために導入が進んでいるのでは?そうなれば、尚更『ビズリーチ』の導入企業を増やすことがHRTech事業の要になってきそう。
売上推移

・売上推移は右肩上がりで好調
・成長率も高い水準で進捗
※子会社の売上は含まれない
新株式発行並びに株式売出届出目論見書から2016年以降の売上・利益・売上昨対を整理しました。売上はキレイな右肩上がり。
経営者の略歴
南 壮一郎(代表取締役社長)
>>>南壮一郎氏についてざっくり調べてみた【Owner Profile】
1999年7月 モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター・ジャパン・リミテッド(現モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)入社
2001年1月 パシフィック・センチュリー・サイバーワークス・ジャパン株式会社入社(現 PCCWLimited)
2004年9月 株式会社楽天野球団入社
2007年8月 株式会社ビズリーチ設立代表取締役社長
2010年10月 株式会社ルクサ(現auコマース&ライフ株式会社)代表取締役
2017年12月 ビズリーチ・トレーディング株式会社(現株式会社スタンバイ)代表取締役(現任)
2020年2月 当社代表取締役社長(現任)
・1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)の投資銀行本部に入社
・2004年、楽天イーグルスの創立メンバーとしてプロ野球の新球団設立に携わった後、2009年、ビズリーチを創業
・その後、採用プラットフォームや人材活用クラウド事業をはじめとした人事マネジメント(HR Tech)領域を中心に、事業承継M&A、物流、SaaSマーケティング、サイバーセキュリティ領域等においても、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する事業を次々と立ち上げる
・2014年、世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。
・2020年2月に株式会社ビズリーチがVisionalとしてグループ経営体制に移行後、現職に就任。
『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか (NewsPicksパブリッシング)』で南 壮一郎氏のビズリーチ着想から苦悩が書かれていた。全く畑違いのITスタートアップを設立し、ユニコーンとしてIPOを果たしたのは素直にすごい…。
これからの戦略を独自解釈をする
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)には「経営戦略」と「課題」が記載してあります。経営戦略&課題≒今後の打ち手であり、これから何をすべきかが書かれています。資料を参考にしながら、これからの戦略を独自解釈したいと思います。経営戦略や課題は抜粋しているので詳細を知りたい方は有価証券報告書を参照ください。
領域トップリーダーとしてのマーケット深耕
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の要約
・『ビズリーチ』の主なターゲットは日本における従業員101名以上の企業
・従業員101名以上の企業数は48,645社※1
・ビズリーチを利用したことのある累計導入企業数は15,500社以上(2021年1月末時点)
・未利用企業の新規開拓及び利用企業への深耕営業の更なる促進により、更なる成長可能性がある
・人材紹介業及びネット転職情報サービスの国内市場規模はそれぞれ年々拡大
・2015年度の3,028億円(人材紹介業2,100億円、ネット転職情報サービス928億円)から、2019年度には4,395億円(人材紹介業3,080億円、ネット転職情報サービス1,315億円、合算値につき2015-2019年度年平均成長率9.8%)まで成長※2
・雇用の流動化でホワイトカラーの転職活動が中長期的にさらに活発化していくポテンシャルがある
・一方で、国内すべての正社員転職件数を潜在的な市場とみなした場合、当社グループサービスを経由した転職件数が占める比率はまだ低い水準にある
・グループサービスの認知度の高まりを、サービスを経由した転職件数の更なる増加に繋げることで、今後の収益増を実現していく
・このために、「ダイレクトリクルーティング」の具体的な成功事例の積み上げと周知に努めるとともに、経営者・採用担当者による実践を助けるノウハウを手厚く提供していく
ビズリーチは国内になかった「ダイレクトリクルーティング」という新しいマーケットを確立したと思っています。マーケットを作ったリーダーとしてやるべきことは明確に2つ。
①マーケットリーダーとして新しい「何か」を見つけて深耕していく
②マーケットリーダーとして市場を広げ続ける
この2つを実現し続けることで圧倒的な領域No.1になっていく。
マーケットリーダーとして企業が抱えているインサイトを見つけ、適切なサービスに昇華し、ダイレクトリクルーティング周辺かつ競合が存在しない領域に事業展開をしていくことで地位が確立していくはず。
顧客インサイトは領域や事業規模によって全く変わってくるため”言うは易く行うは難し”な取組になる。また、HR Tech領域のツールは有象無象でさまざまな企業が展開をしているので「ビジョナルならでは」の領域を見つけなければ埋もれてしまう可能性もある。
難易度が高い各採用領域への展開
新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・新卒をターゲットとする『ビズリーチ・キャンパス』、最初の転職である20代の若手転職を支援する『キャリトレ』、企業活動の中核を担うプロフェッショナル人材の採用を支援する『ビズリーチ』とキャリア形成における各ステージのサービスを提供している
・ハイスキルITエンジニア向け転職サイト『BINAR』、パートタイマー・アルバイト領域の求人検索エンジン『スタンバイ』を通じて、各領域特化型の採用サービスを提供している
・国内における人材獲得競争が激しさを増す中、採用に関する総合的なプラットフォーマーとして確かな地位を築くことを目指している
ビジョナルのHR Tech事業の悩ましきは、潜在顧客(採用領域)を広げれば広げるほど大手人材会社が競合になってしまうこと。ビジョナルならではの「ダイレクトリクルーティング」という強みが生きればいいが、人材会社の実態は「セールス力」だったりもするので安易な展開も難しそう…。
『ビズリーチ』事業などを通して、なにか既存の商慣習をガラッとかえるトリガーを見つけられれば次の収益の柱になる可能性はある。
地方展開の可能性
新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・採用領域における事業開発のみならず、HR SaaS領域における『HRMOS』シリーズ、M&A領域における『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』、サイバーセキュリティ領域における『yamory(ヤモリー)』等、幅広い領域において新規サービスを生み出してきた
・新規事業に特化した戦略子会社であるビジョナル・インキュベーション株式会社の設立等の取り組みを含め、継続的な新規事業創りに対する強いコミットメントをしている
・新規事業を創出し、一定の規模に育てた上で、当該事業を高く評価するパートナー企業に持分を譲渡することを通じて、成長資金を獲得してきた実績もある(『ルクサ』のKDDIへの売却、『スタンバイ』のZホールディングスへの事業の吸収分割)
・これらの取引より得られた資金は新規事業開発等に再投資されている
ダイレクトリクルーティングについては、現状首都圏やビジネス都市部での利用が多い印象だが、地方の老舗も可能性がある気がする。優秀人材の獲得や後継者確保が難しい地方へプロフェッショナル人材を送り出すというのはニーズがあるはず。
またコロナ禍になり、地方での働きを考えたいと感じている人は一定数でてきているはずなので、うまくマッチできれば拡大可能性はある。そして、そのあたりはIncubation事業で展開している『ビズリーチサクシード』のアセットがうまく活用できそう。
もっというとM&A会社や地方銀行とのアライアンスをすすめることで「地方開拓」がもっとうまく進んでいきそう。
「プラットフォームを作り続ける会社」のポジショニング
新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・主力サービス『ビズリーチ』運営で培ったプラットフォーム運営ノウハウを活かし、他領域でも主要なプラットフォーマーとしての地位を確立している
・物流業界のデジタル・トランスフォーメーションを推進する荷主・運送企業を結ぶオンラインプラットフォーム『トラボックス』、事業承継をはじめとする資本の流動化を支援する事業承継M&Aプラットフォーム『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』の運営
・『トラボックス』は、2020年の年間累計での荷物情報登録件数97万件となっており、荷主・運送企業を結ぶ国内最大級のプラットフォームとなっている
・『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』は、2021年1月時点で6,600社以上の買い手企業と460社以上のM&Aアドバイザリー事業者が参画するサービスに成長
・2020年10月からは中小企業庁との連携も行い、HR領域以外の領域においてもキープレイヤーとしての地位を確立しつつある
『ビズリーチ』を筆頭にプラットフォームを作ってビジネスをしていくのがお家芸になりつつある。情報の非対称を正すのプラットフォームを展開がこんごも進んでいきそう。
個人的には金融市場、特にスタートアップの資金調達関連は面白そう。最近は徐々に情報開示がされ始めたものの、どうしても”村感”があるため「ダイレクトプラットフォーム」で投資家と起業家をつなぐ何かがあると日本のアントレプレナーも増えていきそう。
総括/まとめ
ビジョナルはHR領域で独自性のあるポジションを確立されており、”一丁上がり”感がある半面、不景気などで一気にダメージを受けやすい事業であることも事実。
情報の非対称性をみつけ、独自で展開している「プラットフォームづくるのノウハウ」をつかって色んな業界の変革をしていってほしいなあと思っています。
社名変更もそんな思いがあったのかしら?(ビズリーチ=HR Techという印象を変えるため?ビジョナル=プラットフォームを作る会社になっていってほしい)
(余談)
IPOの準備プロセスで会社自体が大きくなりすぎていて整理が追い付かないという話を聞いていたが、ホールディングス化をしたことでシンプルになってスムーズに進んだ?この辺は専門家に聞いてみたいところ。
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