【5分で読める企業分析】i-plugの有価証券報告書を参考に独自見解

5分で読める企業分析

株式会社i-plugとは

就職活動中の学生及び企業を対象に新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」。子会社で適性検査サービス「eF-1G(エフワンジー)」を提供。

会社概要

会社名:(株)i-plug
代表者名:中野 智哉
創業年:2012年4月
上場年:2021年3月18日
上場コード:4177
発行市場:マザーズ
業種分類:情報・通信
会社URL:https://i-plug.co.jp/
採用サイト:https://i-plug.co.jp/recruit/

ビジネスモデル

i-plugが顧客に提供している価値
i-plugが顧客に提供している価値

顧客に提供している価値を一言で表すと、「採用の効率化と最適化」の提供です。
・新卒に特化したダイレクトリクルーティング
・独自DBで学生と企業をマッチング
・採用後工程にある「定着」を子会社のサービスでカバー

【ビジネス構造】

事業は新卒採用のダイレクトリクルーティングサービスと、適性検査サービスの2軸。新卒ダイレクトリクルーティングサービスは、基本的にワンショットでのスポット商材。ユーザーになる学生からは課金せず企業から収益をあげるモデル。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)にサービス単価など詳細の記載があります。

早期定額型
※インターンシップや早期面談など、学生の就活開始段階から積極的にアプローチしたい企業向け

利用料金:75万円~※前払い
採用決定時の費用:0円
内定辞退による返金:38万円
最低人数:3名~

成功報酬型
※就職活動が本格化する3月以降に集中的にアプローチしたい。第2クールの母集団形成や、内定辞退分の欠員を補充したい。

利用料金:0万円
採用決定時の費用:38万円/名
内定辞退による返金:38万円
最低人数:1名~

OfferBoxの料金体系

SaaSや月額で積みあがるサービスでIPOする企業が多い中、「スポット」は珍しく感じるが、業界を俯瞰するとストックモデルになるからくりがある。そのからくりは「新卒採用に特化している」というもの。

リクルートのオウンドメディアで「なぜ、新卒採用をするの?」という記事には、新卒採用の4つの目的が整理されています。

目的1:人員構造の最適化(若手労働力の確保)
目的2:将来のリーダー・コア人材の獲得
目的3:組織活性化
目的4:企業文化の継承

新卒採用の4つの目的をかみ砕くと「新卒採用は、企業の継続的な発展を見据えるための採用」となります。逆に、企業の継続的な発展のためには新卒採用を止めることは、何か悪いこと(景気の悪化や業績の悪化など)がない限り少ないと言い換えられるかもしれません。

また、新卒採用は中途採用に比べ、活動自体にパワーがかかるうえ、入社後の戦力化にも時間がかかります。そのような新卒に対して「未来の投資」ができる会社は業績に余力のある会社とも言える。

余談ですが、私が前職でコンサル営業をしていた時は「儲かっている会社を見つけたければ、まずは新卒採用をしている企業を中心にアプローチをしろ」と言われていました。

サービスの話に戻ります。

新卒ダイレクトリクルーティングサービスのほかに、子会社が展開している適性検査サービスがあります。こちらは月額+オプションで展開してるサービス。
①企業アカウント:月額9,800円~利用できる
②1診断あたりオプション:1,000円~

ただ、支払いが12か月分を先払いにしているため、キャッシュフローを前に持ってきています。

i-plugグループのサービス課金で面白いのが「完全前金」「完全成功報酬」で明確にキャッシュフローを意識してバランスをとっているところ。

完全成功報酬の場合、運用コストが固定費としてかかってしまう、かつ採用が見込めなければ売上が立たないモデルになる。そのため「完全前金」のプランを入れることでキャッシュフローのバランスをとっている?

【顧客開拓】

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の【事業の内容】に記載があるように、企業側が導入しやすい成功報酬型の料金プランをフックに、顧客接点をつくっているとのこと。顧客接点を獲得したあとは、提案機会の獲得、受注のプロセスをツールを活用して顧客化につなげる体制を構築しているよう。

実際、このマーケティングの仕組み化がまわっているため企業の登録数は右肩上がりで伸びている。

OfferBoxの企業登録数の推移

また、SaaSモデルの企業と同じく、カスタマーサクセスを重視し専任担当を設置しているのも企業登録伸張の要素かもしれない。

今後の戦略にも紐づくが、悩ましきはユーザーの獲得か。魅力的なユーザーがいなければ「収益源の企業」の数も増えないという鶏卵現象が起きてしまう。

ユーザーとしては「就職できる会社と会えればいい」はず。ユーザーが、絶対にこのサービスを使わなければならない理由が明確でないといけない。他社との差別化をしながら、独自の強みを出していかなければユーザーの獲得がどこかで頭打ちになってしまう可能性がある。

売上推移

i-plugの売上推移(2016年からの売上、利益、営業利益率のグラフ)
2016年からの売上、利益、営業利益率のグラフ

・売上推移は右肩上がりで好調
・成長率も高い水準で進捗
※子会社の売上は含まれない

新株式発行並びに株式売出届出目論見書から2016年以降の売上・利益・売上昨対を整理しました。売上はキレイな右肩上がり。内訳は直近の第8期しか明記がなかったが、図版どおりで、成功報酬が全体の75%、早期定額が20%ほどの構成になっている。手前で課金する早期定額サービスが多いのでキャッシュフローは安定か。

登録している企業は、成功報酬、早期定額のどちらかをいずれか選択している。課金ポイントの時期が「前」「後」で異なるがi-plugの売上源泉のは「企業登録数」にため、今後もこの企業数をいかに伸ばしていくのかが継続成長のキーになりそう。

経営者の略歴

中野 智哉(代表取締役社長CEO)

2001年6月 株式会社ロード入社
2002年6月 株式会社アド・エイエヌ(現 パーソルキャリア株式会社)入社
2012年4月 当社代表取締役社長
2018年6月 当社代表取締役CEO(現任)、 株式会社イー・ファルコン取締役(現任)

・セカンドキャリアは求人広告代理店のアド・エイエヌ出身
・人事畑で10年の経験、その後独立

ローテクな人事業務の経験からTechnologyを掛け合わせたi-plugを独立という流れはとても納得できる。また、求人広告代理店は「THE営業」の組織の傾向が強いので、i-plugもセールス力が強い組織なのかもしれない。

これからの戦略を独自解釈をする

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)には「経営戦略」と「課題」が記載してある。

経営戦略&課題≒今後の打ち手であり、これから何をすべきかがかかれているので内容を砕いて解釈してみました。課題は抜粋しているので詳細は有価証券報告書を参照ください。

企業から学生(ユーザー)に対してのオファーの質

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の要約
・新卒採用ミスマッチな状況を解決するためにサービスの開発・改良に取り組んでいる
・学生へは期待しているような企業からのオファーが届くことといった機能性、利便性、デザイン性等を高めていく
・企業へは適性検査「eF-1G」との連携強化により、受検結果を用いた「分析」を行うことにより、ターゲット学生の探しやすさ、採用決定率の高さといった提供価値を高めていく
i-plugのビジネスリボン図

人材ビジネスはリクルートで使われる「リボン図」で考えるとシンプルに理解しやすい。
左右のどちらかが少ないと全体の面積が増えていかない構造になっている。

i-plugのサービス構造は

・ユーザー数が少なければ企業は集まらない
・企業が少なければユーザーが集まらない

となっている。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)から読み解くと、登録しているユーザー数と企業数は順調に増加しているとのこと。

ユーザーと企業の登録数推移
ユーザーと企業の登録数推移

リボン図の左右どっちを優先するか、ではなく両方を回し続けることが人材ビジネスの肝になる。そして、その結束点にサービス提供企業が存在しており、「何かを媒介として繋ぐ」ことが必要になる。

i-plugにおける”何かの媒介“は「オファー」になる。オファーは企業から学生(ユーザー)に直接連絡をする仕掛け。オファーが発生しなければ企業と学生(ユーザー)を繋ぐことができなくなる。

オファーの数も大切だが、本質は「オファーの質」が求められるはず。オファーの質が悪ければユーザーが離脱してしまうからだ。

今後は「オファーの質」を精度を高く維持できる仕組みが作れるか、回し続けられるか、がポイントになりそう。

ユーザー獲得における差別化

新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・新卒ダイレクトリクルーティングサービスの市場規模(予測値)は2,629百万円(出典:㈱矢野経済研究所「新卒採用支援市場の現状と展望 2020年度版」)
・グループで約60%のシェアを獲得できている
・テクノロジーに長けた新興企業が新卒HR領域に参入してきた場合や、膨大な新卒採用に関するデータを保有する大手人材関連企業等が新卒ダイレクトリクルーティングサービス市場に参入してきた場合は経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がある

事業の収益源になる企業の集客方法は前述してある通り、マーケティングノウハウで増やす仕組みができつつある。

一方、ユーザーの獲得方法はとても悩ましいはず。ユーザーである学生は「希望の就職先が決まる」ことが目的であり、i-plugをはじめとするプラットフォームに依存する必要性があまりない。他のプラットフォームと大きな差別化がなければ学生(ユーザー)にとって「このプラットフォームでなければならない」という選択肢になりにくい。

極端な話、「Googleの日本法人の新卒採用はi-plugしか公開されていない」などの他社にはないメリットがないとユーザーを囲い続けるのが難しい。これから「他プラットフォームとの差別化」をどのようにしていくのかが気になる。

競合視点にすると、テクノロジー文脈での競合ユニコーンのビズリーチ。データベース活用文脈での競合はリクルートエージェントなどのエージェント会社。市場カバレッジが比較的高いので参入可能性はそれほど高くないが、今回IPOをしたことで「市場の拡大可能性」に競合が改めて認識されたはず。

事業拡大のための新規事業

新株式発行並びに株式売出届出目論見書の要約
・人工知能をはじめとするテクノロジーの進化はHR領域にも浸透(HRTech)
・ICTを活用したタレントマネジメントや業績評価に加え、ハイパフォーマー分析等による活躍人材の再定義を検討する企業は増加傾向にある
・2020年度の新卒採用支援サービスの市場規模は、前年度比0.4%減の1,281億円が見込まれている
・そのうち新卒紹介サービス市場の成長率は前年度比109.5%
・ダイレクトリクルーティングサービス市場の成長率は122.7%
・当該二分野において前年度比二桁成長を維持
・新卒採用支援サービス市場は、就職情報サイト、イベント・セミナー、新卒紹介サービス、新卒採用アウトソーシング、新卒採用アセスメントツール、内定者フォローサービス、ダイレクトリクルーティングサービスの7つのサービスに大別される
・グループで学生の保有経験やパーソナリティデータ、企業とのマッチングデータといったビッグデータの蓄積に加え、そういったデータを用いたマッチング技術を磨いている
・多くの企業や大学とのつながり、就活生に対してのサービス認知を形成
・これらの強みを活かすことで、キャリアデータベースプラットフォーム構想のもと、新卒採用領域を起点に前後の領域に対して新規事業の展開に取り組んでいく
HRTechのカオスマップ(出典:HR NOTE)

新卒採用×ダイレクトリクルーティングという領域のパイオニアとしてニッチ領域を深耕しているi-plug。今後と展開として「新卒採用をしている企業が悩むモノをサービス化」していく事業展開が考えられる。分かりやすく採用のミスマッチを減らすために客観データをみれるという適性検査サービスが第一歩と考えられる。

その他、新卒採用をしている企業の課題で思い浮かぶのは、採用管理、マネジメントツール、コミュニケーションツールなどか。採用周りのサービスは有象無象あるのでIPOをきっかけにM&Aが進むと面白くなりそう。

総括/まとめ

今後の戦略で気になる点は3つ。

・ユーザーと企業の結節点になる「オファーの質」をどのように高めていけるか
・他社との差別化をするうえで、どのような独自性を打ち出していくのか
・新規事業の打ち手をどのように広げていくのか

これまで培った「オファー」「内定者の適正データ」などのビッグデータや、成功報酬をフックに広げていった企業ネットワークを存分に使って新しい事業展開をしていくんだろうなあ、と感じました。

5分で読める企業分析

他の企業の「5分で読める企業分析」まとめも順次作っています。

タイトルとURLをコピーしました